なんで女性に偏るの?「偏りトラップ」その3:精神的トラップ

2015年9月28日「IDOBATA!-女の人生障害物だらけ?」開催今回は「なんで女性に偏るの?」の続き、精神的トラップについてです。(その1身体的トラップその2経済的トラップ)いうまでもなく、精神的に女性自身が「やっぱり私が育児家事をやらないと」と思えば、自ら「女性に偏る」状態を作り出してしまいます。そんなこと思っていない、と思いつつも、どこかにそんな気持ちを無自覚に抱えていることも多いものです。

いまだに「三歳児神話」?

3歳くらいまでは……というフレーズを「誰か」が口にするのを聞いたことがある人は多いでしょう。

「三歳児神話」は「子どもは三歳までは,常時家庭において母親の手で育てないと,子どものその後の成長に悪影響を及ぼす」という考え方です。1960年代に広まったといわれます。

今は多くの人が認識しているように、そこには科学的根拠もなく、信じるような種のものではありません。平成10年(1998年)版「厚生白書」では、母親が育児専念することが、母子の過度な密着関係を生み、重圧やストレス、虐待につながる可能性にまで触れた上で、三歳児神話について「少なくとも合理的な根拠は認められない」と記載しています。(第1編/第2章/第4節/1に三歳児神話に関する記載があります。)

決してこの時期が子どもにとって「どうでもいい」時期だというわけではなく、乳幼児期を含めた生育環境が子どもにとって大きな影響を持つ、というのはごくシンプルに当たり前のことでしょう。ただ、環境の要因というのは、「◯◯があったから△△になった」と言えるほど単純な一対一の因果関係があるものではなく、「母親が子育てに専念すること」が「良い環境」の条件として通用するのは非常におかしな話です。

こんな理屈が通用したのには、その時代の社会状況が大きく影響しています。

高度経済成長期は、夫は仕事、妻は家事育児の分業が確立した時代です。「夫の収入で食べていけて妻が専業でいられて子育てをキチンとする」こと自体が「ある種のステイタス」にすらなりえます。これは「母親が子育てに専念できない=夫の収入が低く家庭環境があまりよくない=子どもの環境も良くない」というステレオタイプな考え方が成立して広まることができてしまった大きな背景でしょう。

実際、70代の女性が、何気なく「お母さんが仕事しないですめばいいのにね」と、貧困家庭の心配をするような表情で言うのを聞いて驚いたことがあります。現実には、共働きで企業でバリバリ働いているお母さんのことを差していただけに、あまりのイメージの落差に「子どもを預けている」という理由だけで出るこの価値基準をリアルに感じた瞬間でした。

家族に関する妻の意識〜データから

本当に三歳児神話は幅をきかせているのでしょうか。これは、「第5回全国家庭動向調査 現代日本の家族変動」(国立社会保障・人口問題研究所)のデータです(13章)。有配偶女性の回答を分析したもので、第1回調査1993年/第2回1998年/第3回2003年/第4回2008年/第5回2013年を比較しています。

家族に関する妻の意識

出典:第5回全国家庭動向調査 現代日本の家族変動(国立社会保障・人口問題研究所)カラー部分はpatomato追加

だんだん減ってきているとはいえ、三歳児神話をなぞったような「子どもが3才くらいまでは、母親が仕事を持たず育児に専念したほうがよい」への賛同割合が高いのがわかります。ただし、これは年代が混ざっているので、子育て世代に限って見るとどうなるでしょうか。

年齢別に第5回2013年調査のいくつかの項目を年代別に見たものがこちらです。

家族に関する妻の意識(年代別)

出典:第5回全国家庭動向調査 現代日本の家族変動(国立社会保障・人口問題研究所)カラー部分はpatomato追加

さすがに、20代ではかなり減っていて世代間格差が大きいのがよくわかります。若い世代ほど影響を受けている率は少ないのですが、40代では7割を超えてまだかなりの割合を占めています。そして子育て世代の上、祖父母世代を見ると、かなりこの傾向が強いのがわかります。

自分自身は頭では三歳児神話を否定していても、子ども時代の記憶として、こうした意識や社会的イメージが蔓延した中で育ったことが、少なからず今の自分に影響を与えている可能性はあるでしょう。

子どもの環境の大切さを、一面的に「女性が仕事をすると◯◯になる/しなければ◯◯になる」と結びつけて語るのはとても短絡的です。三歳児神話は普遍的なものではなく、社会背景があってごく一時期に流布した考え方だと自覚した上で、それにこだわることなく、自分はどうするのか、を選択するのが大切だと思います。

上記のデータは女性が抱える自己矛盾も示していて面白いので、またそれは別のコラムで書いてみたいと思います。

出典詳細
第5回全国家庭動向調査 現代日本の家族変動(国立社会保障・人口問題研究所)
報告書の第13章「家族に関する妻の意識」
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狩野 さやか

早稲田大学卒。株式会社Studio947のデザイナーとしてウェブやアプリの制作に携わる一方、子育て分野を中心にコラムを執筆。patomatoを運営してワークショップや両親学級講師などを行なっている。著書に「ふたりは同時に親になる 産後の『ずれ』の処方箋」。 → 狩野さやかMAMApicks連載コラム一覧

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