女性が抱える自己矛盾〜ストレスの源泉

今回は、女性の側が抱えている内なる矛盾、について、見てみたいと思います。

前回のコラムで配偶者のいる女性の「家族に関する考え方」を示したデータを紹介しました。育児や家事に関する男女差についての項目が多く含まれています。

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出典:第5回全国家庭動向調査 現代日本の家族変動(国立社会保障・人口問題研究所)
第1回調査1993年/第2回1998年/第3回2003年/第4回2008年/第5回2013年

いずれもの設問も世代間ギャップが多そうな項目です。年代別に集計したデータに移りましょう。第5回2013年の「性別役割」に関する項目だけを取り出したものです。

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出典:第5回全国家庭動向調査 現代日本の家族変動(国立社会保障・人口問題研究所)カラー部分はpatomato追加

「寿退社」はちゃんと滅びつつある

さすがに、「結婚後は夫は外で働き、妻は主婦業に専念すべきだ」は賛成割合が低い。60代以降で大きく差が出ますが、時代を考えれば当然です。これが「結婚後」ではなく「出産後」という問いだったらば数字は違ったかもしれませんが、少なくとも「寿退社」(=結婚したら女性社員は会社を辞める)という感覚は今は少数派です。ここはだいぶ意識が変わってきています。

老いも若きも「平等意識」の高さがすごい!

「夫も家事や育児を平等に分担すべきだ」という項目は、他項目と比べて世代間格差が少なく、すべての世代で高いのが特徴です。専業主婦がメジャーだった世代でも一様に高く、30代40代を50代60代の数字が越えているほどです。「自分が家庭に押し込められた」現実の裏返しの気持ちの表れとも言えるかもしれません。

「平等意識高い=自分も仕事をしている」とは限らず、仕事をしていなくても、また、仕事の時間や収入が「夫>妻」の関係だったとしても、「平等に分担すべきだ」という意識を強く持っている人の割合は多いということでしょう。

平等意識が強いのに「男:仕事優先、女:家庭優先」も肯定

このように平等意識が高い一方で、男女の優先順位差を肯定する項目、例えば、

「子どもが3才くらいまでは、母親は仕事を持たずに育児に専念したほうがよい」
「夫は、会社の仕事と家庭の用事が重なった時は、会社の仕事を優先すべきだ」
には、若い子育て世代も6割以上が賛成をしています。

家庭内での発言権が男性にあるべき、男女差を育て方に反映すべき、という考えも、賛成の割合が概ね6割を越えます(20代「育て方」を除く)。

平等意識の高さが、単に「男女差をつけちゃダメ」の裏返しならば、もっとこれらの割合は低いはずです。

「夫も家事や育児を平等に分担すべきだ」が全体で80.5%ですから(冒頭の表)、残りは2割程度。ところが、6割を越え7割近くが賛成しています。

これが自己矛盾の現実であり、女性のストレスの源泉でもあります。

自己矛盾層

平等がいいなら男女差否定じゃないの?と単純にはならない状況を図にするとこんな状態です。
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この自己矛盾めいた状況に、ごく普通の感覚として陥っているものです。
「もっと家事や育児を主体的にやってほしい」けど「収入が減るのは困る」とか。
「もっと家事育児をやってほしい」けれど「私の方が上手だから変なやり方をされるとかえって面倒」とか。
……こんな感覚も、平等と性差肯定が混ざっているといえるでしょう。

この矛盾はきれいに解消することはなかなか難しいものです。

同じだけ収入を得ている夫婦は、まだ問題が整理しやすく、「収入を得る責任をイーブンに負っているのだから、家事育児の責任も同等に追いましょう」と紐解いていきやすいでしょう。平等に責任を負う以上、双方が仕事時間を調整する、家事育児についても、それぞれの手法を認め、「私のやり方じゃないと」というテリトリー意識を解除する……そういう理屈を成立させやすいからです。

でも、収入が夫のみ、もしくは「夫>妻」の場合には、ここまで理屈でスッキリさせられません。

微妙なグレーゾーンが一番多い

実際には、現実は仕事が「夫>妻」、家事育児が「夫<妻」なのだけれど、家事育児を夫にももっとしてほしいと思っているというグレーな領域で苦しんでいる人が多いでしょう。

「とはいえ稼いでないから言いづらい」「とはいえ自分が収入低いから言いづらい」これは大きなストレスです。この自己矛盾を抱えたままでは、感情論に陥りコミュニケーションが悪化しがちです。

単に「やってよ!」と要求してイライラをつのらせるよりも、自分はどこまで収入面での責任を負うのか/負わないのか、その上で、どういうラインを夫に求めるのか……これを客観的に整理できると、少しストレスが和らぎそうです。

・夫の時間がないのはわかっている、実務はいらないので妻の気持ちには寄り添ってほしい。
・夫の時間が限られているのはわかっている、妻の指示通りに時々担当してほしい。
・ふたりとも仕事で時間がない。夫独自のやり方でいいから、積極的に同じだけ分担してほしい。
・妻の仕事レベルを上げたい。夫の収入が減っていいから時間を作って家事育児を半分担当してほしい。

……何通りものラインが夫婦のスタイルの数だけあるはずです。万能の手法はなく、個々の「納得解」のようなもの。どのラインがお互いを尊重していて快適なのかが同意できていると、それがどんな形であれ、ふたりの満足度は上がります。

自分たちはどの辺を落としどころにするのか、感情論をうまく避けながら見つけられたらいい。
それには、女性の自己矛盾を自覚して、ふたりで共有することが大切な一歩になるのではないでしょうか。きっとそれによって男性の側で抱えている「男の自己矛盾のグレーゾーン」も見えてくるはずです。見せ合ってしまえたら、少し、何かが変わるかもしれません。

出典詳細
第5回全国家庭動向調査 現代日本の家族変動(国立社会保障・人口問題研究所)
報告書の第13章「家族に関する妻の意識」
ふたりは同時に親になる産後のずれの処方箋

『ふたりは同時に親になる 産後の「ずれ」の処方箋』
猿江商會 ¥1500 +税 ISBN978-4-908260-08-7
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狩野 さやか

早稲田大学卒。株式会社Studio947のデザイナーとしてウェブやアプリの制作に携わる一方、子育て分野を中心にコラムを執筆。patomatoを運営してワークショップや両親学級講師などを行なっている。著書に「ふたりは同時に親になる 産後の『ずれ』の処方箋」。 → 狩野さやかMAMApicks連載コラム一覧

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