妊娠体験ジャケットよりも育児の過酷なタイムラインの体験or知識を!

4月のはじめ、こんな記事が目に入りました。

自民男性議員が「妊婦体験」 7.3キロのジャケット着用1泊2日」(毎日新聞)

男性議員が1泊2日妊娠体験ジャケットをつけて過ごし、「妊娠中ならではの体への負担や不便さを男性議員も知ることで、出産や子育てに関する政策づくりにつなげる狙い」だという話題です。記事リンク先には、スーツ姿で妊娠体験ジャケットを装着する姿が写真と動画で掲載されています。

私は、この記事を見て、「妊娠や出産を学ぶときに、まだ妊娠体験ジャケットが主流なのか……」と残念に思いました。妊娠体験ジャケットは、妊娠中の女性の体力的な負担のほんの一端を想像することにはつながるでしょう。でも、妊娠体験ジャケットをつける時間とやる気があるのなら、リアルな乳幼児の子育てタイムラインを学んだり、なんらかの形で体験する方がよほど役に立つと思うのです。

身体の大変さはヒトゴトで終わりやすい

1泊2日で身体に重りをつけて想像する大変さというのは、子育ての協業にはあまり役に立ちません。女性の身体の大変さだけを体験しても、男性は妊娠で身体を使う性ではないことが強調されるばかり。そこで感じる大変さというのは、「ぼくらは産める性ではないのでこのつらさを担えないけれど、女性はこんなにも大変なんですね、サポートしなければいけないですね」という外側からの視点です。

これでは、男性が子育ての当事者になり損ねてしまいます。もう、いいかげんに、外側からの視点でアプローチする時代は終わりにしたい。

子どもを迎える家族にとって、本当の厳しい戦いは赤ちゃんが生まれてからのケアの方です。妊娠期の絶不調と出産の激痛を耐えたらすっと身体が楽になって、ふわっとした子育てが待っていると思ったら大違いで、身体のダメージをかかえたまま突入するのは、過酷な睡眠不足と24時間気を抜けない日々。

女性の身体の負担はたしかに男性には肩代わりできません。でも、赤ちゃんのケアは身体のつくりの違いに関係なく男女ともできること。赤ちゃんケアのタイムラインの過酷さを少しでもわかっていれば、「こんなに赤ちゃんケアはきついから一緒にやらないと無理ですね、ひとりでやったら倒れてしまいますね」という当事者としての実感につながると思うのです。

育児において目を向けるべき「手強い敵」は、泣き止まない絶えずケアが必要な赤ちゃん。そのイメージを持つことは、子育ての当事者としての大切な第一歩になるでしょう。

赤ちゃんケアシミュレーター

アメリカのドラマなどで見かける、高校生などが赤ちゃんケアを学ぶために使う育児体験の人形があります。調べて見ると、赤ちゃんの生活リズムがプログラムされていて、昼夜問わず泣いたり、ケアをしてもなかなか泣き止まなかったりという作りになっています。リストバンドでチェックインして、ミルクやオムツ替えなどちゃんとケアしたか記録されてスコアが自動的にでるようです。

「RealCare Baby® 3 Infant Simulator」

妊娠体験ジャケットよりも、この赤ちゃんケアシミュレーション人形を1泊2日で連れて帰った方が、数倍リアルで当事者意識につながる学びになるでしょう。きっと、育児というものが、全然自分が寝る暇がなくて仕事なんかちっともできなくて体がボロボロになるものなんだな……というイメージを持てるはずです。

こんな話をSNSでしたところ、大阪市生野区区長の山口照美さんが、以前、この人形を体験したことがあるという情報を寄せてくださいました。山口さんのコメントごと紹介します。日本でも活用している例があるのだと知ってとても興味深いです。

育児のスタート前に学ぶべきことのうち、いま最も欠けているのは、育児生活のハードさに対する知識です。このシミュレーターのような体験の機会はなかなかないかもしれませんが、新生児ケアのタイムラインを知識として知っておくだけでも、夫婦双方の当事者意識を高めることにつながると思います。

ふたりは同時に親になる産後のずれの処方箋

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狩野 さやか

早稲田大学卒。株式会社Studio947のデザイナーとしてウェブやアプリの制作に携わる一方、子育て分野を中心にコラムを執筆。patomatoを運営してワークショップや両親学級講師などを行なっている。著書に「ふたりは同時に親になる 産後の『ずれ』の処方箋」。 → 狩野さやかMAMApicks連載コラム一覧

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