便利家電や家事代行が手抜きにならない?!〜心の落とし穴に要注意

洗い物は食洗機、外出前にロボット型掃除機をセットして、週に3回は家事代行を頼んで……。こんなふうに「積極的に自分以外の手を借りる」と、時間を確保してゆとりを持って生活できそうな気がします。そして子育てと仕事の両立の話題ではよく登場する解決策のひとつ。

ところが、これらの手段が必ずしも「ゆとり」につながっていないとしたらどうでしょう? 朝日新聞の日曜版「The Asahi Shimbun GLOBE」の特集「家事がなくなる日」(2015-12-06)で、面白い指摘がされていたのでご紹介したいと思います。

便利家電や家事代行で助からないわけがないじゃない……?
なのに、どうしてなのでしょうか……。

「便利家電や家事代行が手抜きにならない?!」の落とし穴に要注意!/「The Asahi Shimbun GLOBE」特集「家事がなくなる日」が面白い

香港の家政婦事情から〜落とし穴1

裕福じゃなくても狭くても…

記事によると、香港はなんと7世帯に1世帯が外国人家政婦を雇うという家政婦先進の地で、経済的にゆとりがある/さほどない、妻が有職/無職にかかわらず雇うのが実状だそうです。また、55平米で子ども3人の5人家族+住み込み家政婦の6人で住むという事例から、スペースに余裕があることが条件でもありません。決して富裕層の特別な選択肢ではなく、普通の選択肢として生活に入り込み女性の社会進出を支えています。

「外注化と夫婦仲」〜プラス効果なし!?

家政婦が来るようになってから子どもが自分の茶碗を片付けなくなってしまった、等の副作用も紹介されていましたが、ここでは、香港教育学院 張家楽助教授(家族社会学が専門)の話「外注化と夫婦仲」に注目したいと思います。

夫婦の仲の良さについて既婚者974人に行った面接調査の結果を分析すると、家政婦を雇うことによるプラスの影響はなかった。なぜか。
 家政婦に指示を出し、与えられた業務ができているかどうか確認するのは、一般的に女性の役割だ。一方で、家事の負担が軽くなるため、子育てをより完璧にこなすことが求められる。仕事に力を入れれば責任も重くなり、長時間労働につながる。女性の負担は増えるのに、夫婦の会話は減りがちで、不満はたまるばかりだ。
引用元記事

完璧度を上げてしまうという落とし穴

これは本当に面白い指摘です。「今まで通りの役割分担のまま」をキープしたり、「理想の完璧度」を目指してしまう限り、いくらアウトソースしても、実質負担が変わらない、ということには、なかなか気付きにくいと思うのです。手を抜いて余裕を持つというスタイル変更にならず、「より完璧に仕事をこなす」「より完璧に育児をする」というむしろ完璧度を強めてしまう方向に向かう可能性があるという指摘に、ヒヤリとするものを感じます。

やりたいことの総量からあふれることを単にアウトソースするのではなく、そもそもの役割分担や、そもそもの分量、そもそもの完璧度自体を一度解体して見直し再構築しないと、期待するようなアウトソースの効果は出ないというわけです。

構造を変える必要性

子どもが生まれたらふたり暮らし時代と同じ生活はキープできません。どんなに人の手を借りたって、子どものための時間は必要です。だから、「今まで出来ていたことがいくつかできなくなる」というのを当たり前に受け入れて、完璧度を下げたり、一時的に諦めるものを増やしたり、時間を確保したり、分担しなおしたり、という構造&意識改革をふたりが一緒にするのが大切。その上でアウトソースするなら、心や時間のゆとりにつながる効果が期待できるのでしょう。

1973年より外国人家政婦の受け入れを始め事例を重ねてきた香港から聞こえてきたこの指摘は、家政婦スタイルのアウトソーシングも選択肢のひとつになり始めている日本で、大いに参考にできると思います。

テクノロジーで家事は楽にならない?〜落とし穴2

家電が主婦を救わなかった歴史

では、便利家電はどうでしょう? ペンシルベニア大学 ルース・シュウォーツ・コーワン名誉教授(科学技術の社会史が専門)の談を紹介している部分に面白い指摘があります。

テクノロジーによって家事が楽になったかどうかは、議論が分かれる。コーワンは1983年の著書『お母さんは忙しくなるばかり』で、上下水道やガスなど社会インフラの普及が男性を家事から解放した一方、電化製品が登場しても女性の負担は減らなかったと指摘した。

 例えば洗濯機の出現で、子どもや使用人の手を借りずに洗濯ができるようになり、かえって主婦の労働は増えたという。「あれから30年たったが、状況は同じだし、これからも変わらないだろう」

 コーワンによると、大切なのは主体的に家事をやることだという。「例えば、洗濯機や洗剤のメーカーは客に毎日洗濯してほしいと願っているだろうが、実際にその選択をしているのは、あなただ。本当に毎日タオルを洗う必要があるのか。自ら考え決めることで、家事の負担は変わると思いますよ」》
引用元記事

テクノロジーが人の基準を上げてしまうという落とし穴

家電の出現でむしろ家事労働が女性に集中するようになったというのもなるほど、ですが、注目したいのは、技術の向上と人の感覚のバランス関係です。家電の技術が上がることで、家事の完成度レベルも同時に引き上げられているという側面は、意外と気づきにくい。その新基準に自分を合わせていく限り、完璧さへの希求やそこにかける時間が結局変わらない可能性もあるというわけです。

例えば忙しくて1週間に1度掃除機をかけるのが普通で、ホコリが床にたまっているのが当たり前だったとします。ストレスだけれど仕方ない。そこにロボット型掃除機を購入したら、毎日簡単に床がきれいになって気持ちが楽になるでしょう。でも、そうなると今度は「毎日ホコリなし」が当然の基準に引き上げられてしまう。そのうち、1日でもロボット掃除機を走らせられないと「ダメな自分」に思えたり、走らせるために毎日床を片付けることがストレスになる、そんな可能性があります。

基準を自分で決められるか?

記事にあるように、できない/やらないでいいと選択する基準を自分の中に持たないと、技術が進んでも、本当の意味では楽にならないのかもしれません。

見えない菌と戦うことまで促される時代、テクノロジーに助けてもらうつもりが、なくても困らないはずの家事レベルの引き上げをしてしまっていないか……という心の予防線をもつことも大切そうです。

家事のアウトソースや高級便利家電は時間が確保できて手間を減らせる為の手段であるはずです。せっかく経済的な負担を負ってそれらに頼るならば、心が楽になれた方がいい。自分たち自身がまず、完璧度を下げて、基準を変えて、その上で頼る、ということを基本にできたらいいですね。

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狩野 さやか

早稲田大学卒。株式会社Studio947のデザイナーとしてウェブやアプリの制作に携わる一方、子育て分野を中心にコラムを執筆。patomatoを運営してワークショップや両親学級講師などを行なっている。著書に「ふたりは同時に親になる 産後の『ずれ』の処方箋」。 → 狩野さやかMAMApicks連載コラム一覧

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