NHK朝ドラ「まれ」で見る妊娠出産に伴う夫婦の温度差
NHKの連続テレビ小説、朝ドラをよく見ます。もう、面白いとか面白くないとかに関係なく、ほぼ義務感というか習慣のようなものです。さて、今週の「まれ」。そう、「まれ」夫婦に双子の赤ちゃんが生まれました。
朝ドラをご覧になっていない方は基本情報、こちらをご参照ください。
NHK連続テレビ小説「まれ」公式サイト
今週はまるでテキスト?と思うほど、妊娠・出産に関する典型的な男女の温度差や壁が出てきました。とてもわかりやすいので、そのいくつかをエピソードに沿ってご紹介したいと思います。
妊娠がわかった!その時……
希(まれ)の妊娠がわかったシーン。夫の圭太は100%喜びます。ハッピーでしかありません。そりゃぁハッピーです。希だって基本的にはハッピーです。でも、それと同時に、そして真っ先に思います。「どうしよう、お店……」。オープンして間もない自分のケーキ屋を休業することのリスク、仕事を休まざるをえない人生の軌道修正に同時にぶち当たり頭の中はぐるぐる。
妊娠したことがわかったときに、なぜか男性は自分の仕事の心配を全くしないのに、女性はまず自分の仕事の心配をしなければならないという典型的な状況が、無邪気な圭太の喜びの表情と希のふとみせる真剣な表情に出ていました。
男性は妊娠出産によって自分の時間の使い方を変化させなければならなくなるという意識があまり強くないから、100%ハッピーでいられるのでしょう。
実際には男性の側も、妊娠中から、つわり対策で料理を担当したり、力のいる家事を担当したり、かなり家事時間をアップさせる必要があります。上の子がいれば、上の子の世話だって相当量担当しないと本当は成り立ちません。それくらい妊娠中の女性の体調は劇的に「しんどく」なります。
そのあたりに思いが及ばず、無邪気にハッピーで時間の使い方を変える意識のない夫と、体調も仕事の軌道修正も全面的にひとりで背負っている感のある妻……となってしまうと、心の溝は早速開き始めることになります。
ドラマの「まれ」の場合は、大家族的に周りの手や目が多かったり、夫も自然に一緒にやっているところがあり、この時点での「溝」自体はなさそうですが、頭の中がハッピー満載の夫圭太と、店をどうするかで悩む妻希は対照的でした。希のケーキ屋に立ち寄った妊娠中の女性客が、「私はまだ仕事のことどうするか決めてない」とこぼすあたりで、女性の「背負い感」を追加演出していたように思います。
外野のうるささ
妊娠出産となると急に外野がうるさくなる傾向があります。ドラマでは典型的に「夫の母」がこのうるさい役を引き受けています。「育児をおろそかにして仕事を取るのか」的な昭和の香り満点の外圧をかけます。
それでも、夫の圭太が「うるさい」と退けているからいいですが、これ、現実世界では、夫が妻の側でなく向こう側に寄り添って同調してしまったりすることもあるかもしれません。そうなると、かなり、きつい。これも一生ものの溝に確実になるでしょう。
仮に夫婦の連携がうまくいっていても、外野が異常にうるさくてそちらの対応に苦慮することは妊娠・出産となるとよく起きることです。なかったものが出現するというよりも、もともとあったノイズが増幅して顕在化して巨大なパワーを発揮しだすだけなのですが、体や生活の変化でただでさえ参っている身には、なかなかつらいものがあります。一人で矢面に立つよりは、二人で立つ方がだいぶましです。外圧に対して夫婦が共闘関係を作れるか、は大きなポイントになるでしょう。
さあ生まれた!生活は大変だ
新生児の育児は、眠れない、眠れない、眠れない……。そんな様子が描かれます。現実の新生児双子はこのレベルでは済まないと思いますが、そういうディテールについてはここでは横に置いておきましょう。
夫の圭太は漆職人で、仕事場と自宅が一緒。子どものことも結構いろいろ一緒にやっていて、これはフリーランスや自営業など生活空間と仕事場が近い位置にある人は、意外と自然に「一緒に」やる傾向があると思います。
もともと生活をしながら仕事がしている感覚があり、かつ、もともと不安定で雇われていない生活をしているから、家事への当たり前度が高く心の垣根も低い傾向にあるのかもしれません。
ですが、これが会社勤めの人だとすると、もともと生活と仕事が空間的にも相当分離しているので、なかなか自分のルーチンに自然に家事育児を滑り込ませられない。いかにも「別のこと」を追加する感じになってしまうのだと思います。
オヤジたちが吹き込む昭和のエッセンスに注意せよ
そんな圭太ですが、漆職人の夜の飲みの席で、昭和100%の「オヤジ」達に子どもの誕生を祝福され、「男は子どもと家庭を守るのが役目」「ますます仕事がんばらないと」という趣旨の激励をされます。そして派手に飲まされ、派手に酔っ払って帰宅して、希が苦労して寝かした双子ちゃんを起こしてしまうという、これまた典型的な失敗。
夫が飲んでくるというだけでカチンとくる生活をしている時期であり、仮に仕事でも帰った音で赤ちゃんが目を覚ましたら「なんで今帰ってくるの!」とイラッとする生活をしている時期です。たった一晩飲んで酔っ払ったのが何?と思うかもしれません。でも、たった1時間も、好きなものを食べたりのんびりしたり気を抜く時間がないのが、この時期の育児専従者の実情。「仮に自分が酔っぱらったら他に代わりにやってくれる人がいない」という絶え間なさ、終わりない緊張感にさらされていることを、夫が理解していないことが、妻の怒りにつながります。
そして、オヤジ達の「子どもが生まれたらますます働いて稼いで家族を守る」という発想がもう、劇的に古い。ここから脱却しないと現代の核家族は、きっと家族総崩れを起こします。片方が仕事と収入という扶養責任を抱え込むのではなく、ふたりとも長いスパンで、仕事や「やりたいこと」を諦めないで続けるにはどうしたらいいか、ふたりで子育て時間を作るにはどうしたらいいか、かつ最低限の収入を得るにはどうしたらいいか、そこを考える必要があるでしょう。
大きなショック→周りの力が心を柔らかくする
希が単発の依頼を受けて店再開前にケーキを作ることになり、夫に託した数時間のそのタイミングでたまたま赤ちゃんが熱を出してしまいます。幸い大事には至りませんでしたが、1〜2ヶ月の月齢の子どもにとっては一大事。このタイミングなんて、本来「たまたま」でしかないのですが、やっぱり希は「自分は子どもより仕事をとった」という方向の責任を感じてしまいます。責任を問う夫の母からの外圧もわかりやすくプラスされます。
その堅くなった心は、育児の大先輩たちの気の利いた言葉や周りや夫の働きかけでほぐれ、体制が整い背中を押され、店を再開する決心につながります。この辺りの展開は、希の場合、恵まれすぎといえば恵まれすぎなわけですが、これだけ周りに暖かくかつ的確な助言者・協力者がいてようやく抜け出したり決心がつくわけです。
これが狭いマンションの一室で、夫と自分と赤ちゃんだけで過ごし、外野がノイズしか提供してこないとしたら、ごく些細なことでも、マイナス思考へのきっかけになって、どうにも抜け出せなくなるでしょう。
女の人生は障害物競走?
今日の放送では希の幼なじみ、友人の一子が言いました。「女の人生って障害物競走みたい」。希が、夫の仕事や人生上の一大事に寄り添いケーキ職人としてのフランス修行というゴールデンコースを選ばなかったり、自分の妊娠出産で始めたばかりのケーキ屋を休んだり、短いスパンでどんどん軌道修正をしていかなければならなかったからです。
この軌道修正というのは、人生において本当は常に誰でもさらされているもの。でも、妊娠出産については、少なくともこの2ジェネレーションくらいの間は、女性の方が圧倒的にひとりで右往左往して背負ってきてしまいました。……片方(多くは男性)が変わりなく仕事に突っ走っておいて、片方(多くは女性)が家に専念する。
ここを一緒に背負って、夫婦一緒に「どうしよう!どうしよう!どうする?どうする?」と、オロオロしてしまう方が、カッコ悪くても、多分、健全で、むしろ当たり前なことなんだろうなぁ、と思うのです。こうなるのが、次の時代のスタイルにきっと、なる、かなぁ……なったらいいなぁ……。
明日の展開もこの先の展開もわかりませんが、この時点でこうやって動けるドラマの中のこの二人は、たぶん一生大丈夫なんだろうなぁ、と思うわけです。
朝ドラ的に前向きに解決できすぎていて嫌になっちゃう方もいるかもしれません。現実は厳しくて、こんな風にうまくいく方が少なくて、夫婦の数だけ、どうにもならないぶつかりあいと溝があるのだろうなぁとも感じます。
でも、まっすぐに教科書的なわかりやすさ、という意味では、今週の「まれ」けっこう温度差ポイント満載でした。
『ふたりは同時に親になる 産後の「ずれ」の処方箋』
猿江商會 ¥1500 +税 ISBN978-4-908260-08-7
Amazonの販売ページ
hontoの販売ページ
※Amazonでマーケットプレイスにしか在庫がない場合、「株式会社トランスビュー」という出品者が出版社直の正規ルートですから安心してお買い求めください。
※honto.jp は常に在庫が安定しているようです。