「家事ハラ」問題とは何だったのか? 《前編》ー言葉の誤用と視点のまずさ

4月末に開催した「IDOBATA!ー夫の家事」の宿題にしたのが、こちらの動画を見てくることでした。

妻の家事ハラ白書 | ヘーベルハウス

皿洗いをする夫の手前に妻の後ろ姿
文字「お皿洗いありがとう、一応もう一度洗っとくね。」
– 音楽 + 男性の印象的な表情 –
文字「その一言が、俺を『食器洗い』から遠ざけた」

こんなパターンで、いろいろな家事を表現したものです。

動画を見るというコンパクトな宿題で、話題が発展しやすいもの、そして何より調査データが紐付いているということもあって選びましたが、実は取り上げていいものか少し迷いました。

この動画にはいろいろ問題もあって、決して私はこの「描き方」を肯定しているわけではないからです。

「IDOBATA!」では、その問題点について話し合いたいわけではなかったので、会では1日目は簡単に説明、2日目は触れませんでしたが、題材として取り上げた以上、何が問題なのかについて、まとめておこうと思います。

《1》言葉としての「家事ハラ」誤用の問題

この動画が公開された当時、ネット上でずいぶん批判が渦巻きました。ひとつは「家事ハラ」という表現の誤用という問題でした。

「家事ハラ」という表現はもともと、ジャーナリスト・和光大学教授の竹信三恵子氏が「家事労働ハラスメント―生きづらさの根にあるもの」(岩波新書)という書籍の中で創出した造語です。

竹信氏は、家事労働を蔑視・軽視・排除すること(ハラスメント)によって、その担い手が大きな不利益をこうむる社会の歪みを指摘しました。

対価のない「家事労働」を担う人は十分に外で働けないため、経済力や発言力を奪われます。これが女性の貧困や生きづらさにつながり、男性は逆に家事労働から排除され「働く機械」としてバランスを欠いた生き方をすることになります。

「家事ハラ」という名づけによって、家事労働の視点から「働き方」を見直す重要さを指摘するのがこの本の大きな意図でした。(※1)

こうした意図で作った言葉が、「妻のひとことが夫のやる気をなくす」というようなあまりにも意図も次元も違うシチュエーションに使われたことに、竹信氏は抗議しました。

へーベルハウスのサイトには当初、竹信氏の著書についてや言葉の定義についての解説はなく、現在表示されている部分は、抗議を受けて後からつけ加えられたものです。

当時この件をテーマに開かれた、竹信氏とコラムニスト・淑徳大学客員教授の深澤真紀氏のトークセッションに行ったのですが、誤用への抗議の話にとどまらず、女性と男性の家事や働き方について興味深い視点の連続でした。(※2)

こんなに気づきに満ちた「家事ハラ」という言葉が、やっぱり、あのシチュエーションで使われるのは残念、という思いを強くしました。特に、当事者意識の低い男性が、夫婦感の「あるある」を揶揄して使う状況を想像すると、これは、やっぱり非常に残念だなぁと思うのです。

改めて、この動画のシチュエーションは「家事ハラ」とは違いますよ、と説明しておきたいと思います。

《2》「妻のその言い方まずい」というアプローチがまずい

もうひとつの問題は、「妻のその言い方が夫のやる気を台無しにしている」と取れるような表現に落とし込んだことです。実際、例えばこのページにはられているバナーには「妻の何気ない一言が、夫の育児参加をさまたげている」なんて、はっきり書き添えられていたりします。

先日のIDOBATA!レポートでも整理した通り、そもそも家事を協業する際の夫の「当事者意識」の欠如が妻のイライラや夫婦間の溝になっているのが一番の問題です。多くの妻の違和感はそこに集中しています。ところが、そこに全く触れずに、「妻がそう言うから夫がそうなる」という表現に落とし込んでしまったのです。

もっとも課題である「当事者意識の欠如」というポイントをあまりにも無邪気に完全に無視して、わざわざ妻の神経を逆なでするような構図を作り出してしまいました。「責任転嫁するな」と受け止められても残念ながら仕方ない。

実はこの「ヘーベベルハウス 共働き家族研究所」はけっこうちゃんと調査をしていて、結構なページ数の調査報告書が公開されていて、その調査自体は貴重だと思います。ただ、その調査の一部分をどう切り取り、どうメッセージ化するか、の部分が大いに問題でした。

調査をどう解釈して表現するかで、データは生きてきません。あまりにももったいない。

→『「家事ハラ」問題とは何だったのか? 《後編》ー牧歌的な解決策と風刺の失敗』に続く

※1
詳しくは、竹信三恵子氏自身の文章が、こちらで読めます(全文は有料)。
「家事ハラ」炎上で女性は何に怒ったのか(上)
「家事ハラ」炎上で女性は何に怒ったのか(下)

※2
トークセッションの様子は、以下で(1)のみ無料で公開されています。
竹信三恵子×深澤真紀 「家事ハラ炎上!」爆走トーク
[1]何が言葉の意味をねじ曲げるのか
[2]「草食男子」は褒め言葉だったのに
[3]「昔は良かった」幻想から脱却せよ
[4]外の敵と戦うため内なる敵を自覚せよ

ふたりは同時に親になる産後のずれの処方箋

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狩野 さやか

早稲田大学卒。株式会社Studio947のデザイナーとしてウェブやアプリの制作に携わる一方、子育て分野を中心にコラムを執筆。patomatoを運営してワークショップや両親学級講師などを行なっている。著書に「ふたりは同時に親になる 産後の『ずれ』の処方箋」。 → 狩野さやかMAMApicks連載コラム一覧

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2件のフィードバック

  1. 2015-05-17

    […] この記事は《前編》より続きます。 […]

  2. 2015-05-17

    […] Next story 「家事ハラ」問題とは何だったのか? 《前編》ー言葉の誤用と視点のまずさ […]