「家事ハラ」問題とは何だったのか? 《後編》ー牧歌的な解決策と風刺の失敗

この記事は、4月末に開催した「IDOBATA!ー夫の家事」の宿題にとりあげた動画について、『「「家事ハラ」問題とは何だったのか? 《前編》ー言葉の誤用と視点のまずさ』の後編です。

《3》「家」という解決方法に結びつける強引な論理展開

実際には、家事にまつわる夫婦の心情の溝というのは、家庭の中では相当深刻なケースが多いものです。夫の当事者意識の欠如に対する妻のもやもやは、相当根が深い。

なのに、その夫婦の深刻すぎる問題を、「家づくりがそれを解決できる」と取れるような流れを作ってしまったのは、あまりに、牧歌的で短絡的で強引です。動画単体ではそこまで強く表現されていませんが、サイト上ではその流れが見て取れます。

そして、資料請求をするともらえる「妻本、夫本」を見ると、さらにそれを強く感じます。

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資料請求用の上記サイト上で「家づくりの工夫で、変えられます!」と大きく表記されていることからもわかる通り、こうした問題を解決するにはこんな設計が……、と半ば強引なつなげ方がそこにあります。

「マルチアイランドキッチン」とか「ランドリーサンルーム」とか「デイリークローゼット」とか、なんだか素敵そうなものが解決してくれると言われてしまうともう、なんというか、解決策が飛躍しすぎています。自分好みの設計で家を建てられる経済的に恵まれた人がどれほどいるのでしょうか……。

調査を設計に生かすのはとても大切なことで、そうやってどんどんいい商品を開発して欲しいとは思います。調査データを生かしてこんな優れた設計にしました、というのは素晴らしいことです。そこで、終わらせておけばよかったのです。でも、夫婦の深刻な問題を、家づくりが解決してくれるって言われてしまうと、「そもそも家なんて買えないんですが……」で、終わりです。

問題をそこまで深刻に捉えていないこの牧歌的な態度が、多くの人の反感を買うに至った最大の原因だ、と思うのです。

《4》おそらく動画の意図は「風刺」。本当はくすっと「笑い」に落とし込みたかった

むかし、派遣のスタッフサービスという会社のCMで、困った日本のオフィスの様子が皮肉と笑いを込めて風刺的に描かれているものがありました。「ドーーシーーラーー、ソラドソーーーーファミーーーーー」という決めの音楽が流れて、こんな会社(上司)に参ってスタッフサービス(オー人事オー人事)に電話をする、というやつです。

私は、最初にこの動画を見たときに、これはもしやあのスタッフサービスのCMみたいにしたかったのかな、感じました。最後の決めの音楽の使い方というかパターンも含めてなんとなく、作り手の意図はその辺だったのかな、と。

あのスタッフサービスのCMは、笑えたのです。どの事例も相当ひどいのだけれど、ちゃんとアレンジして笑えるように作り込まれていました。あれは、現実の世界で本当に「会社いやだなぁ」、と思っている人でも笑えるレベルだと思います。一方、それと比較すると、旭化成の動画は「そのまんますぎる」のです。

夫とうまく家事が協業できずに、家庭内の冷たい空気をどうしよう、このイライラをどうしよう、と本気で苦しんでいる人がこの動画を見たら、多分、全く笑えません。

「なんなの!私の言い方が悪いってこと!!」「あなたのそのお客様状態なやり方が問題なんでしょ!」と反発心を持つか、もしくは「私の言い方がいけないのか……」と真面目に落ち込むか、どちらかです。

その、家庭内の冷たい空気の現実は、もっともっと本気で深刻すぎて、そのまんま投げかけられて、簡単に「笑い」にできるレベルではないのです。

夫婦の家事問題がそこまで深刻だとは思っていなくて、軽く「くすり」と笑える動画に仕立てたつもりなのかもしれませんが、そこが、完全に大いにずれていたと思います。


そんなこんなで、あの動画を使ったキャンペーン自体はいろいろ問題あり、なのです。

でも、調査自体とデータはよかったのになぁ、と思っています。そして、あの動画に出てくるようなひと言を「つい言っちゃう」構造ってなんなのかっていうこと自体は、いい気づきにつながる面もあります。

なのに、あれを妻→夫へのハラスメントと呼び、妻に責任を転嫁するような図式が、圧倒的にダメで、全部を台無しにしてしまいました。

ジャーナリスト・昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員の治部れんげ氏のこちらの記事が、そうした広告としての切り取り方の問題を突いていて、とても明快なので、最後にご紹介します。

「家事ハラ」、キーワード誤用した企業は原著者に謝罪。真の問題は?


以上、話題になった時期からすると、なんで今さら……というタイミングではありますが、今回「IDOBATA!」の題材に取り上げた責任としての問題整理でした。

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狩野 さやか

早稲田大学卒。株式会社Studio947のデザイナーとしてウェブやアプリの制作に携わる一方、子育て分野を中心にコラムを執筆。patomatoを運営してワークショップや両親学級講師などを行なっている。著書に「ふたりは同時に親になる 産後の『ずれ』の処方箋」。 → 狩野さやかMAMApicks連載コラム一覧

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