なんで女性に偏るの?「偏りトラップ」その2:経済的トラップ

3つの「偏りトラップ」の話、続編です。前回「身体的トラップ」について見ていきましたが、今回は「経済的トラップ」について見ていきましょう。

特に出産まで共働きだった場合、女性に家事育児が偏るきっかけの大きなひとつが、女性「だけ」が産休/育休/時短勤務、もしくは退職をすることです。

なんで女性に偏るの?「偏りトラップ」2〜経済的トラップ

なぜ夫でなく妻が調整弁になるのか〜経済的メリットを捨てられない

子どもが生まれたら必要な時間を確保するために夫婦ともに生活スタイルと仕事のスタイルを変えればいいだけのはずです。でも、なぜ妻だけが育休や辞める選択をしやすいのでしょうか。

それは、会社の制度を有効に使う際に、経済的にデメリットのより少ない方法を選ぶからです。例えば育休を取ることについて、

・夫が取るよりは妻が取った方が職場での受けがよい
・夫が取ると夫のキャリア(将来的な収入)に影響が出そうだ
・夫が取るよりは妻が取った方が育児中の家計に入るお金の下がり幅が少なくて済む
・ふたりでそろって取ったら家計に入るお金がかなり下がる
・ふたりでそろって取るのは贅沢だと思われそう

というパターンの人が、まだまだ多いでしょう。制度が整っても職場の上司や同僚の感覚はすぐには変わりません。妻「だけ」が育休をとった方が目の前の経済的メリットは大きいとなると、どうしてもそうしがちです。

「子育てにはお金がかかる」という大きなイメージの下で、「今入るお金を減らしたくないし、将来的に収入が減るリスクもできるなら避けたい」と思うのは自然なことでしょう。

でも、会社という組織を前提にこれらの制度の利点を最大限に活かそうとすることで、いつの間にか大きな偏りトラップに自ら足を踏み入れている、ということは自覚した方がよいと思います。

産むのに合わせて休む、時期がきたら復帰する、時期が来るまで時短で働く、時間に融通がきくから育児家事を担う……と、結局は、女性があらゆる変動要因を引き受けることになってしまうのです。

制度の整った先にあるベルトコンベアー!

今の20代の若い方々の感覚は、ベルトコンベアー式に「なんとなく育休」に突入するムードがあるようです。制度の整った恵まれた企業に勤めている人に限られるかもしれませんが、「若い後輩や若い育休中のお母さんたちを見ていると、ほぼ自動的に迷う間もなくそっちに進んでいると感じる」と、複数の方から同様の感想を聞くのです。

育休が当たり前にとれる状況になること自体は喜ばしいことです。でも、その制度が「守って」くれるおかげで、「より恩恵を受けられる方」を自動的に選んでしまい、それによってむしろ女性の側に育児家事が偏る状態に陥っているかもしれません。

家事育児の役割が偏ったまま、流れにのってするーっと復帰すると、早々に多大な負担が女性側にかかります。育休中に出来上がった家事負担の偏りを職場復帰後にイーブンに戻すのはものすごく苦労するという声はワークショップでも上がりました。

ベルトコンベアーに乗ること自体は何も悪いことではありません。ただ、足を乗せる瞬間にちょっとだけ俯瞰して、今どこに向かおうとしているのかを見つめて意識することは大切だと思います。

収入の有無で崩れる夫婦の発言力

もうひとつ経済的なことで内なる偏り助長ポイントがあります。

「女性が休んだり仕事を辞めたからって、夫婦で一緒に家事も育児もやればいいでしょ」と思うかもしれません。でも、それまで「収入を得ること」が同等であることの証のように感じていた共働きの夫婦が、仕事の比重で、夫100%対妻0%になった状態を想像してみてください。

「産休育休で仕事をしていないならその間くらい家事育児を全面的に自分が担うべきだろう」「仕事を辞めて収入がゼロの自分が家事育児を担うのがフェアだ」と、それまで仕事で収入を得ていた女性が考えてしまうのはある意味自然な思考回路です。

夫とフェアであろうとするがゆえに家事育児をきっちり担わねばという発想になりかねないのです。

現実には、育児をひとりで担おうとすればたいてい無理が生じます。予期していなかったその壁にぶつかった時、「稼いでない自分が稼いでいる夫にどれだけ言っていいのか……」というジレンマに陥ります。収入格差が自らの発言力を押さえ込んでしまうのです。そのジレンマはそのうち「私だって育児がなければ稼げるんだ!」というイライラに転化しがちです。

双方が変化を受け入れる

今、育休から復帰2-3年後に会社を辞める人がとても増えているそうです。長い目で見て、双方が仕事も子育ても普通に並行してやるには何が大切なのか、よく考える必要がありそうです。

夫婦双方が育児スタートによる変化を受け入れて共に試行錯誤する土壌を作るためには、

・目の前の制度の最大メリットを得ることが最善の選択ではないかもしれない。
 →夫婦ともに一時的に収入がダウンしたとしても、双方が働き方や生活の仕方を変えることを積極的な選択肢とする。

・夫婦間の経済格差で自分を追い込まない。
 →負い目に思わない工夫か、収入を少しでも得てバランスを取る工夫をする。

という2点に注意して「経済的トラップ」に陥らない工夫をすることが大切です。もしくは、陥るのは仕方ないとして、こういう状態にはまり込んでいるな、という自覚を持つだけでも違うのではないでしょうか。

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狩野 さやか

早稲田大学卒。株式会社Studio947のデザイナーとしてウェブやアプリの制作に携わる一方、子育て分野を中心にコラムを執筆。patomatoを運営してワークショップや両親学級講師などを行なっている。著書に「ふたりは同時に親になる 産後の『ずれ』の処方箋」。 → 狩野さやかMAMApicks連載コラム一覧

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